2011年2月28日

製本工程ご紹介

空想製本屋さんのところへ製本工程を見学に行ってきました。
今回は、本を一度ばらして糸で綴じ直し、あたらしいかたちへと仕立て直す工程を簡単にご紹介します。

こちらが仕立て直す前の本。
左は糸綴じの上製本、右2冊は無線綴じ(糸を使わず背を化学糊で固めた製本方法)です。


はじめは、本をばらす作業です。
見返しをはがし、表紙と本文を外し、さらに折丁の真ん中に通っている糸を切って、少しずつ、本をばらしてゆきます。
本は、16頁がひとまとまりになった「折丁」を束ねた構造になっています。折丁は、両面に4頁が印刷された本文が4枚重ねられ、二つ折りにされた構造をしています。
写真は、本が折丁ごとにばらされたところです。


無線綴じの本は、1頁ずつばらしていくそうです。その後、糸綴じができるように頁を薄く丈夫な和紙で繋げていき、折丁をつくる加工をします。

次は、前回ばらした本の折丁の背を、補修する作業に移ります。
本をばらした際の背の痛みを、細長く切った和紙でくるんで、補修します。もとのカバーを綴じ込む場合は、折丁に同じ様に和紙で貼りつけます。そして、見返しを本文と一緒に綴じるために、白紙の折丁に全面貼りします。
この見返しは表紙と本文を繫ぐ、強度上大切な役割を担っています。見返しが本文と一緒にかがられることで、本の耐久性は格段に上がるそうです。


刷毛を素早く放射状に動かして、ムラなく糊をひいていきます。
この後、見返しを貼付け、プレス。一晩置いて、完全に乾かします。
これで、本を綴じる前の下ごしらえは完了です。ここまでが長い!
でも、きれいな仕上がりにするためには、見えないこの工程がとても大切とのこと。なんだか料理とも似ていますね。

だんだんと本の形がみえてきました。
本を綴じる前には、あらかじめ本文に糸の通る穴を糸のこぎりで開けておくそうです。そして、綴じ。
「かがり台」という専門の道具を使います。こちらのかがり台、中世ヨーロッパでは嫁入り道具とされていた時代もあったそうです。製本がお裁縫と同じように日常の女性の手仕事だった時代があったのですね。

こちらが、本をかがっているところ。


丈夫な麻糸を芯にして、折丁の真ん中に糸を通し、折丁を重ねて綴じていきます。かがり糸には、丈夫な麻糸を使います。糸の太さは、本の厚みによって変わります。本が歪まないように、糸がたるまないように、注意しながら、本を綴じていきます。

こちら、かがり終わったところ。背は糸が通っている分、厚くなっています。


このままだと、本は台形のかたちをしています。背と小口の厚みを均等にして、整った箱形にするために、次に背固め、丸み出しをします。背固めとは、本の背に糊を塗り、背を均一に均して固めること。そして、丸み出しとは、糸でかがった分厚くなった背の厚みを外へ逃がして、背を力の均衡を保つかたちアーチ状に整えること。この丸みは、決して人工的なものではなく、自然の原理に添ったかたちです。本の開きやすさなどにも関係する、重要な工程です。
金槌を使って、素材が動きたい方向に少し手助けをするような感覚で、丸みを出していきます。
こちら、丸み出しのようす。まだ途中です。


丸み出し後は、背の補強のために寒冷紗を貼り、しおりや花布を貼り、クータ(開きをよくするために本の背に貼付ける、細長いチューブ状の紙)を貼り、これで本文は完成。

次に、布や革を貼りつけ、装飾をした表紙と合体させます。
この製本方法は、別につくった表紙で本文をくるむので、くるみ製本と呼ばれています。本を開きやすくするために、背と表紙ボールの間に、広めのミゾをとり、本文の背とミゾをまず表紙によく接着します。

そして、最後に見返し貼り。
表紙の裏面に見返しを貼り付けます。一晩プレスに入れて、完成。本のお仕立て直し、完了です。

かたちある本をばらすことに戸惑いを感じる方もいるかと思いますが、一冊とゆっくり向き合い、機械で作られた本を、読む者の手に取りもどしていく。本の持ち主の思いや記憶を一緒に綴じ込んで、世界でたった一冊だけの本に仕立て直す。そこに、本をわざわざばらして綴じ直す理由があるのだと思います。ひとりといっさつの関係性を体現できるようなあたらしい本のかたちかもしれません。

空想製本屋、往来堂書店・日比