2011年2月14日

はじめに


















あなたの大切な本、仕立て直します。

世界にたった一冊の本—。
本は、物語や知識や、様々な時代や国の人たちの思いを、たくさんの人に伝えるために作られるもの。そして必ず一定部数以上作られるものです。
でも、その一方、世界でただひとりだけのために作られる本があったとしたら?世界にたった一冊の、オーダーメイドの本、そんな本があったなら?

昔、フランスでは、伝統的に本は未綴じや仮綴じと言って、糸で紙の束を簡単にかがった状態で売られていました。それを製本家に頼んで、好みの装丁に仕立ててもらっていたのです。つまり、本の「かたち」を作り上げる事が、読者の側に委ねられていたのです。買ったままではまだ本は完成されておらず、読者と一冊の本が刻んだ思いが織り込まれてはじめて、本がものとしてかたちをもつようになるのです。

時代も国も変わって、電子書籍などの登場が騒がれている昨今ですが、ひとりといっさつが出会う、その特別な偶然には、いささかも変わりありません。
ひとりに大事にされ、思い出を共有してきた本は、もはや大量生産されて書店に同じ顔をして並べられていた、何万という本の中のただの一冊ではありません。その本はもう、一人の持ち主に出会って、その人にとってかけがえのない一冊になってしまった本なのです。手垢がついていたり、珈琲のしみがあったり、書き込みがしてあったりする、大事な世界でたった一つの本になっているのです。その、持ち主と本の秘めた物語を、手の中におさまる本というかたちへ、具象化したい、それが空想製本屋の、出発点です。

古き良き時代の、本のお仕立て屋を、ここ日本でやってみようと思います。ひとりといっさつが出会う、その特別な偶然を、あらたな本の「かたち」にして残せたら、本を身体で読む感覚を少しでも多くの人が覚えていてくれたなら、幸せだなと思うのです。わたしたちのいまを、記憶する箱としての本。そんな本とのつきあい方を、提案したい。一冊一冊、ひとりひとりにゆっくりじっくり向き合って、本を仕立てていきたいと思います。

オーダーメイドの本の仕立て屋、空想製本屋。
どうぞお見知りおきを。

(空想製本屋・本間あずさ)