2011年3月3日

皮鞣し工場見学記

2月の最初の水曜日、空想製本屋さんに誘われて「かわ工場見学会ツアー」へ出掛けてきました。
今回お世話になったのは革の町・墨田区の山口産業株式会社さん
荒川土手沿いの建物には鞄のハンドルが付いている(トランク型?)ので遠くからもひと目で分かります。


参加者は私たちだけなのかなと思っていましたが、服飾業界のひともちらほら。20名弱で見学会スタート。
山口産業株式会社さんは豚革の製造工場です。皮をなめす瞬間から、ワックス掛けの最終工程まで行っています。日本ではじめてエコレザーの認定をもらった工場で業務用の卸売だけでなく、「革倉庫」というサイトで個人の方でもお買い物が出来るようになっていますので、興味のある方はチェックしてみてくださいね。私たちに説明してくださったのは専務の山口さん。てきぱきと豚革のこと、鞣しのことをお話してくれました。

鞣し(なめし)とは、皮を柔らかく、そして同時に腐らなくすること。

鞣しが終わった革は腐らないので、コンテナに積んで日本から海外に卸したりする工場もあるようです。
「固いブーツを柔らかくしたいときどうしたらいいですか?」といったような質問がたまにあるそうですが、商品として出来あがっているものは揉むかオイルを塗るかしか柔らかくならないとのこと。鞣しに入る前の段階なら十分柔らかく出来るそうですよ。

山口さんの工場での1日の作業は約300枚。
朝の5時から始まって3時か4時くらいに終わります。

食肉加工所から専門の原料問屋さんに生で運んでもらい、作業は脱毛から始まります。
豚の皮に付いている毛を大きなドラムに脱毛用の硫化物と一緒に入れて溶かしてきます。
今の季節だと5時間くらい。その後一晩浸けて完全に溶かします。



昔は豚の毛を剥いで荒川の土手で乾かして売っていたそうです。歯ブラシに使うのですね。革よりも儲かったとのこと。そういえばご近所のclassicoさんでも固めの歯ブラシとして販売されていました。

脱毛の後は→水洗い→余分の油を落とす、という作業に進みます。
余分な油が残ってしまっていると、後でシミや腐れの原因になるそうです。(この作業は外注さんにお願いしているとのこと。)

外注さんから戻ってきたら、翌朝から繊維を溶かして柔らかくするために4時間から5時間かけて石灰漬けを行います。夏場は2時間、季節や天気と相談します。
その後、余分な石灰分を取り、なめし材の反応を良くするために硫酸を使ってピックル(浸酸)という作業をします。
以上、脱毛からここまで、鞣し前の準備工程で4~5日。


次はドラムから出してシェービングが行われます。
ここまでは油を取る作業しかしていないので裏がガサガサ!
なので、1枚1枚裏をきれい削って厚みを調整します。

タンニン鞣しの場合はもう一度なめし剤。本鞣しでは植物タンニン(ミモザアカシアの樹皮)を入れてドラムを回転させるそうです。これでやっと鞣しが終わります。ここまで来れば2度と腐らないそう。

植物タンニンとは??
植物タンニンとは
植物の樹皮などから抽出したタンニンを主成分とする鞣剤で、通常抽出液を濃縮・乾燥したもの(植物タンニンエキス)をいいます。
タンニンは、収斂性があるので、腐敗しにくい革に変える性質(鞣し効果)を持っています。

植物タンニン鞣しは古くから行われている方法で、現在ではワットル(ミモザ)、ケブラチョ、チェストナットなどが使用されています。タンニンは皮への浸透に時間がかかるため、クロム鞣しに比べると時間がかかります。またクロム革に比べると伸びや弾性が少なく、耐熱性は幾分か劣りますが、可塑性に富んで成形性が良い。 
「革屋!LEATHER_RAMONの日常」 より

ここまでの作業が約1週間です。

空想製本屋さんで使用している革のすべてがタンニン鞣し(ただし牛と山羊)だそうです。
タンニン鞣しの革は、使い込むほどに艶が出て色が変わっていくので、本の表紙はいつも触れているので風合いの変化が楽しめます。

ヌメ革を使った空想製本屋さんの作品

三ヶ月後にはこんな雰囲気に!


次は染色の工程に入ります。
染色は100~200枚単位で行うそう。

近くには怖そうな薬品が…
色によっては一晩漬け込む必要もあります。環境基準に適合する染料のみを使用しているそうですよ。

その後、80度くらいの温度でアイロンをかけます。
傷を隠すために強い圧力で潰すそうです。これをやらないと反射して目立ってしまいます。
豚は特に傷が多いとのこと。たった6ヶ月ですが、養豚所でのストレスで噛み合ってしまったり柵にぶつけたりしてしまうことが多いようです。




アイロンが終わったら吊り乾燥。
木組みの専用干場で1枚ずつ棒に掛けて自然乾燥します。



そしてネット張り乾燥。そのままだと繊維の方向に縮んで丸くなってしまうので、外注さんにお願いして乾燥させるそうです。
ここでラセッテーナチュラルは完成!

その後、仕上げ作業としてアイロンがけ。
温度と圧力のバランスでツヤを加減します。
最後にスプレー仕上げをして、ラセッテーニブリック、ラセッテーポーチコ完成!



職人さんがアイロンをかけているところ
 ここから革の扱い方についていくつかレクチャー。


「使った時にどうなるか見なきゃいけないので、ぐわーっと掴んで様子見てね」と山口さん。大胆です。

革はどうしても洗いたい場合には洗ってもいいけれど、繊維の方向に縮んだり(それを活かしたものがウォッシュ加工)、染料が抜けたり、油が抜けやすくなるので、必ず柔軟剤入りの中性洗剤で洗ってねとのこと。カビが生えやすいので乾燥はしっかりと。夏場であれば半日で生えるよ!

まったく同じ染料を使ってもクロム鞣しとタンニン鞣しで発色が違うそう。
左がタンニン、右がクロム


この後は質疑応答の時間があって、工場見学会は終了しました。
おつかれさまでした!

工場から見えるスカイツリー。


*写真:空想製本屋、book pick orchestra・鬼島くん
*文:往来堂書店・ひび

2011年2月28日

製本工程ご紹介

空想製本屋さんのところへ製本工程を見学に行ってきました。
今回は、本を一度ばらして糸で綴じ直し、あたらしいかたちへと仕立て直す工程を簡単にご紹介します。

こちらが仕立て直す前の本。
左は糸綴じの上製本、右2冊は無線綴じ(糸を使わず背を化学糊で固めた製本方法)です。


はじめは、本をばらす作業です。
見返しをはがし、表紙と本文を外し、さらに折丁の真ん中に通っている糸を切って、少しずつ、本をばらしてゆきます。
本は、16頁がひとまとまりになった「折丁」を束ねた構造になっています。折丁は、両面に4頁が印刷された本文が4枚重ねられ、二つ折りにされた構造をしています。
写真は、本が折丁ごとにばらされたところです。


無線綴じの本は、1頁ずつばらしていくそうです。その後、糸綴じができるように頁を薄く丈夫な和紙で繋げていき、折丁をつくる加工をします。

次は、前回ばらした本の折丁の背を、補修する作業に移ります。
本をばらした際の背の痛みを、細長く切った和紙でくるんで、補修します。もとのカバーを綴じ込む場合は、折丁に同じ様に和紙で貼りつけます。そして、見返しを本文と一緒に綴じるために、白紙の折丁に全面貼りします。
この見返しは表紙と本文を繫ぐ、強度上大切な役割を担っています。見返しが本文と一緒にかがられることで、本の耐久性は格段に上がるそうです。


刷毛を素早く放射状に動かして、ムラなく糊をひいていきます。
この後、見返しを貼付け、プレス。一晩置いて、完全に乾かします。
これで、本を綴じる前の下ごしらえは完了です。ここまでが長い!
でも、きれいな仕上がりにするためには、見えないこの工程がとても大切とのこと。なんだか料理とも似ていますね。

だんだんと本の形がみえてきました。
本を綴じる前には、あらかじめ本文に糸の通る穴を糸のこぎりで開けておくそうです。そして、綴じ。
「かがり台」という専門の道具を使います。こちらのかがり台、中世ヨーロッパでは嫁入り道具とされていた時代もあったそうです。製本がお裁縫と同じように日常の女性の手仕事だった時代があったのですね。

こちらが、本をかがっているところ。


丈夫な麻糸を芯にして、折丁の真ん中に糸を通し、折丁を重ねて綴じていきます。かがり糸には、丈夫な麻糸を使います。糸の太さは、本の厚みによって変わります。本が歪まないように、糸がたるまないように、注意しながら、本を綴じていきます。

こちら、かがり終わったところ。背は糸が通っている分、厚くなっています。


このままだと、本は台形のかたちをしています。背と小口の厚みを均等にして、整った箱形にするために、次に背固め、丸み出しをします。背固めとは、本の背に糊を塗り、背を均一に均して固めること。そして、丸み出しとは、糸でかがった分厚くなった背の厚みを外へ逃がして、背を力の均衡を保つかたちアーチ状に整えること。この丸みは、決して人工的なものではなく、自然の原理に添ったかたちです。本の開きやすさなどにも関係する、重要な工程です。
金槌を使って、素材が動きたい方向に少し手助けをするような感覚で、丸みを出していきます。
こちら、丸み出しのようす。まだ途中です。


丸み出し後は、背の補強のために寒冷紗を貼り、しおりや花布を貼り、クータ(開きをよくするために本の背に貼付ける、細長いチューブ状の紙)を貼り、これで本文は完成。

次に、布や革を貼りつけ、装飾をした表紙と合体させます。
この製本方法は、別につくった表紙で本文をくるむので、くるみ製本と呼ばれています。本を開きやすくするために、背と表紙ボールの間に、広めのミゾをとり、本文の背とミゾをまず表紙によく接着します。

そして、最後に見返し貼り。
表紙の裏面に見返しを貼り付けます。一晩プレスに入れて、完成。本のお仕立て直し、完了です。

かたちある本をばらすことに戸惑いを感じる方もいるかと思いますが、一冊とゆっくり向き合い、機械で作られた本を、読む者の手に取りもどしていく。本の持ち主の思いや記憶を一緒に綴じ込んで、世界でたった一冊だけの本に仕立て直す。そこに、本をわざわざばらして綴じ直す理由があるのだと思います。ひとりといっさつの関係性を体現できるようなあたらしい本のかたちかもしれません。

空想製本屋、往来堂書店・日比


2011年2月27日

お仕立て直しの具体例


大切な本に、どんな新しい服を着せるか、素材選びは楽しいけれど、悩ましいものです。
こちらでは、本の内容から、その本のかたちをイメージしていく具体例をご紹介いたします。

見本として仕立て直したものは、以下の三冊です。
こちらは、仕立て直し前です。


仕立て直し後。あたらしく生まれ変わりました。




*『ファンタジーの文法』ジャンニ・ロダーリ(筑摩書房)四六版上製本→

  • デザインB
  • 革:3山羊革オレンジ
  • マーブル紙:1
  • 見返し:里紙枯葉
  • タイトル金箔押し
  • しおり
  • カバー綴じ込み

イタリアの童話作家が書いた本。
物語の作り方などが子どもたちへ話しかけるような文体で、やさしく分かりやすく書かれています。
革装で重厚な雰囲気を出すとともに、イタリアの子どもたちをイメージして、動きのあるデザインと明るい色合わせで遊びを加えました。カバーには武井武雄の素敵な絵が描かれていたので、一緒に綴じ込みました。



*現代詩文庫『尾形亀之助詩集』(思潮社)新書版、並製、無線綴じ→

  • デザインA、
  • 群青色の綿布(サンプル/下の組み合わせ例では代わりに藍色を使用しています)
  • マーブル紙:6
  • 見返し:里紙すぎ
  • タイトル銀箔押し


往来堂書店で購入した本を改装。「つねに自分自身に即して生きた」詩人の足跡をたどるような詩集です。詩人は暗い人生の淵に立ちながらも、そのことばでこの世の美しい情景を切りとってみせてくれます。深い青の布に、水の底のようなマーブル紙を合わせました。見返しにはトルコ石のような色を配して、少しだけ軽やかさも加えて。

*『百鬼園随筆』内田百閒(旺文社文庫)文庫本、並製、無線綴じ→
  • デザインA
  • 布:綿5うぐいす
  • マーブル紙:4
  • 見返し:里紙きび
  • タイトル金箔押し
  • カバー綴じ込み

内田百閒の随筆集です。初版の布張りの装丁からヒントをもらって、うぐいす色の布に黄色のグラデーションでまとめました。和風の布にマーブル紙を合わせるのも素敵です。
渋くてかわいい、感じでしょうか。作家のイメージにも重なります。
縞柄の布なので、箔押しはあまり目立ちませんが、控えめな金箔押しもこの本の雰囲気によく馴染んでいます。

「尾形亀之助詩集」と「百鬼園随筆」は、無線綴じ(糸を使わず背を化学糊で固めた製本方法)でしたが、糸綴じに加工し直しました。 格段に開きがよくなりましたよ。
古い本でしたので、本文紙は、全て活版印刷でした。印刷を布や革の質感が引き立てています。

ほかに、例えばこんな組み合わせはいかがでしょうか。
例: 布:4生成 +マーブル紙:3 +見返し:あんず

春らしい綿麻の布に、淡い黄色のマーブル紙とあんず色の見返しをあしらった、かわいらしい組み合わせです。少女らしい?小説などに。
例: 布:6柿渋 +マーブル紙:2 +見返し:柿

一枚ずつ手で染めた柿渋染めの布と、茶色のマーブル紙、そして鮮やかな柿色の見返しの組み合わせです。
表紙が落ち着いた色合いなので、見返しで色を添えました。
柿渋染めの布は、色合いの変化をお楽しみいただけます。
時間が経つにつれて味が出る、渋好みの本にいかがでしょう。
例: 布:8深緑 +マーブル紙:7 +見返し:すみ

紬のような風合いの立体感のある布に、同系色の緑のマーブル紙を配し、見返しにはすみ色を使って、硬派な雰囲気に。
マーブル紙には少し金色が入っているので、金箔押しが映える組み合わせです。
少し硬い内容の人文書にも合うかもしれません。

お手持ちの本に、どのような革や布を合わせようか、新しい服を着せようか、悩みつつ考えるのも、また楽しいものです。
本の内容はもちろん、作家のイメージや、本の書かれた場所や時代から、素材の組み合わせをを想像してみてはいかがでしょう。
ぜひ、実際に本を店頭で様々な素材に合わせて、素材選びを楽しんでくださいね。

文:空想製本屋






2011年2月24日

素材ラインナップ

今回のセミオーダー企画では、革5種、布12種、マーブル紙7種、見返し12種をご用意しました。
さまざまな素材を組み合わせてお仕立て直しいただけます。
特におすすめなのは、布とマーブル紙の組み合わせ。クラッシックなマーブル紙を和風の布と合わせることで、新鮮な表情がうまれます。
ここでは素材について少しご説明をしています。
画像をクリックすると拡大されますので、ぜひお試しください。

*各素材は、数に限りがあります。また、革やマーブル紙は一点一点表情が異なりますことをあらかじめご了承ください。

◎革
すべてタンニンなめしの革を用いています。風合いの変化をお楽しみいただけます。

革1:牛革ナチュラル
風合いのある飴色に変わっていきます 。


革2:牛革イエロー
ほどよいシワ加工がしてあります。


革3:山羊革オレンジ
きれいなシボが特徴です。



店頭の見本でもこちらの山羊革オレンジを使用しています。
革装ですと、少し重厚な雰囲気になります。


革4:牛革ネイビー
マットな風合いです。


革5:牛革ブラック
静かな光沢があります。


◎布
少しだけ和の雰囲気を感じる布を集めました
布1:桜
綿/素朴な雰囲気の布です。


布2:赤
綿/紬のような風合いです。


布3:橙
綿/紬のような風合い。黒糸が織り込まれています。


布4:生成
綿麻/素朴な雰囲気の布です。


布5:うぐいす
綿/さりげない縞模様です。


店頭の見本でも使用しています。
和風の布と、マーブル紙との組み合わせも、新鮮です。


布6:柿渋
綿麻/手染めの布です。色合いの変化をお楽しみいただけます。


布7:からし
綿麻/わずかな光沢があります。


布8:深緑
綿/紬のような風合い。立体感のある布です。



布9:藍色
綿/紬のような風合いの色です。


布10:紺
綿/フラットな布です。



布11:墨
綿麻/わずかな光沢があります。


布12:黒
綿/フラットな布です。


◎マーブル紙

フランスの職人が一点一点手作業で染めています。大理石のような模様から、マーブル紙とよばれています。

1:


2:


3:


4:


5:


6:


7:


◎見返し

和紙のような雰囲気をもつ「里紙」12色です。表紙と同系色で合わせても、あえてはっとするような色を合わせても素敵です。

1:すみ




2:灰




3:とび


4:枯葉


5:柿




6:あんず






7:きび


8:からし


9:松


10:すぎ




11:あさぎ


12:紺