2011年2月27日

お仕立て直しの具体例


大切な本に、どんな新しい服を着せるか、素材選びは楽しいけれど、悩ましいものです。
こちらでは、本の内容から、その本のかたちをイメージしていく具体例をご紹介いたします。

見本として仕立て直したものは、以下の三冊です。
こちらは、仕立て直し前です。


仕立て直し後。あたらしく生まれ変わりました。




*『ファンタジーの文法』ジャンニ・ロダーリ(筑摩書房)四六版上製本→

  • デザインB
  • 革:3山羊革オレンジ
  • マーブル紙:1
  • 見返し:里紙枯葉
  • タイトル金箔押し
  • しおり
  • カバー綴じ込み

イタリアの童話作家が書いた本。
物語の作り方などが子どもたちへ話しかけるような文体で、やさしく分かりやすく書かれています。
革装で重厚な雰囲気を出すとともに、イタリアの子どもたちをイメージして、動きのあるデザインと明るい色合わせで遊びを加えました。カバーには武井武雄の素敵な絵が描かれていたので、一緒に綴じ込みました。



*現代詩文庫『尾形亀之助詩集』(思潮社)新書版、並製、無線綴じ→

  • デザインA、
  • 群青色の綿布(サンプル/下の組み合わせ例では代わりに藍色を使用しています)
  • マーブル紙:6
  • 見返し:里紙すぎ
  • タイトル銀箔押し


往来堂書店で購入した本を改装。「つねに自分自身に即して生きた」詩人の足跡をたどるような詩集です。詩人は暗い人生の淵に立ちながらも、そのことばでこの世の美しい情景を切りとってみせてくれます。深い青の布に、水の底のようなマーブル紙を合わせました。見返しにはトルコ石のような色を配して、少しだけ軽やかさも加えて。

*『百鬼園随筆』内田百閒(旺文社文庫)文庫本、並製、無線綴じ→
  • デザインA
  • 布:綿5うぐいす
  • マーブル紙:4
  • 見返し:里紙きび
  • タイトル金箔押し
  • カバー綴じ込み

内田百閒の随筆集です。初版の布張りの装丁からヒントをもらって、うぐいす色の布に黄色のグラデーションでまとめました。和風の布にマーブル紙を合わせるのも素敵です。
渋くてかわいい、感じでしょうか。作家のイメージにも重なります。
縞柄の布なので、箔押しはあまり目立ちませんが、控えめな金箔押しもこの本の雰囲気によく馴染んでいます。

「尾形亀之助詩集」と「百鬼園随筆」は、無線綴じ(糸を使わず背を化学糊で固めた製本方法)でしたが、糸綴じに加工し直しました。 格段に開きがよくなりましたよ。
古い本でしたので、本文紙は、全て活版印刷でした。印刷を布や革の質感が引き立てています。

ほかに、例えばこんな組み合わせはいかがでしょうか。
例: 布:4生成 +マーブル紙:3 +見返し:あんず

春らしい綿麻の布に、淡い黄色のマーブル紙とあんず色の見返しをあしらった、かわいらしい組み合わせです。少女らしい?小説などに。
例: 布:6柿渋 +マーブル紙:2 +見返し:柿

一枚ずつ手で染めた柿渋染めの布と、茶色のマーブル紙、そして鮮やかな柿色の見返しの組み合わせです。
表紙が落ち着いた色合いなので、見返しで色を添えました。
柿渋染めの布は、色合いの変化をお楽しみいただけます。
時間が経つにつれて味が出る、渋好みの本にいかがでしょう。
例: 布:8深緑 +マーブル紙:7 +見返し:すみ

紬のような風合いの立体感のある布に、同系色の緑のマーブル紙を配し、見返しにはすみ色を使って、硬派な雰囲気に。
マーブル紙には少し金色が入っているので、金箔押しが映える組み合わせです。
少し硬い内容の人文書にも合うかもしれません。

お手持ちの本に、どのような革や布を合わせようか、新しい服を着せようか、悩みつつ考えるのも、また楽しいものです。
本の内容はもちろん、作家のイメージや、本の書かれた場所や時代から、素材の組み合わせをを想像してみてはいかがでしょう。
ぜひ、実際に本を店頭で様々な素材に合わせて、素材選びを楽しんでくださいね。

文:空想製本屋